@cosme TOKYOに学ぶ、OMO時代の店舗の価値

実店舗の売上不振が顕在化している一方で、ウェブとリアルをうまく融合させ、着実に店舗を増やしている企業がある。それが@cosmeだ。同社の時代を捉えたコミュニケーション戦略についてみていこう。

とにかく「生活者視点」のコミュニケーション設計

徹底的に「生活者視点」でコミュニケーションを設計しているのが、アイスタイルの@cosmeだ。アイスタイルは、1997年にコスメ・美容の総合サイト@cosmeを立ち上げ、今や1300万人を越えるユニークユーザーを抱えている。さらに、2002年にはECサイト「@cosme SHOPPING」、07年には実店舗「@cosme STORE(当時の表記は、@cosme store)」をオープン。「UrCosme (@cosme TAIWAN)」などの海外でのEC進出はもちろんのこと、実店舗も日本全国で22店舗、海外では台湾、香港、タイで10店舗展開しており(20年3月時点)、20年1月には@cosme TOKYOを原宿に出店した。

 販売促進と言えば、広告やPOPなどで「買わせる」ためにはどうしたらいいかを考えることだというイメージが強いかもしれないが、遠藤氏は“体験”から考えることが重要だと言い切る。確かに@cosme TOKYOでは、単なる売場ではなく、様々な“体験してもらう”仕掛けを見つけることができる。

例えば、1階には@cosmeのランキングと連動し、毎週商品を並べ替える「@cosme ウィークリーランキングコーナー」がある。また、使い捨てのチップやパフ、綿棒などを設置し、様々な商品を試せる「テスターバー」もある。SNS(交流サイト)での感想を見てみても、こうした体験は非常に好評だ。

また、店舗のスタッフはカウンセリング研修をしっかり受けているため、もしお客が何か質問した場合でもきちんと答えられるようになっている。まさにお客が“自由に”楽しめる場づくりを行っているのだ。

そして最大のポイントは取り扱いブランドだろう。低価格帯から高価格帯まで200ブランド以上がそろうこともさることながら、「ラグジュアリーブランド」と「プチプラブランド」が同じ売場で展開されている。 最も業界の通例を破っていると言えるが、生活者の気持ちや行動を中心に考えると「ラグジュアリーブランド」と「プチプラブランド」が共存しているのは面白い取り組みだろう。

 このように全ての“生活者視点”の仕掛けが有機的につながって、一つの“体験”の仕組みになっているのだ。店舗を“売場”ではなく、メディアとして捉えることで、さらに販促の可能性は広がるのではないだろうか。

ネットとリアルがクロスする“楽しい”場所づくり

アイスタイルは、@cosmeや@cosme SHOPPING、@cosme STOREなども含め、全サービスのIDを13年に1つに統一している。あらゆるチャネルをストレスなく行き来できるように設計されているのだ。まだまだ現在でも、ネットや店舗などのチャネル別に担当部署が分かれている企業が多いが、こうしたところにも@cosmeの生活者視点が分かるのではないだろうか。

情報が簡単に手に入るが故に、ちょっとした不便や手間によって「面倒臭い」と感じたら、すっとサービスや製品、企業から離れていってしまうのだ。こうした状況で、まずは「フリクションレス」(サービス間の断絶や機器操作の手間など、生活者が感じる不便)を実現することが重要だ。

@cosme TOKYOでは、購入履歴だけでなくサンプルの履歴までも一元化されたIDで管理ができている。そこで、例えば、サンプルを渡したお客に対して後に使い方の動画を配信することなども考えられるという。こうしたコミュニケーションによって、自宅で試してもらえる確率は高まるだろう。使って気に入れば、その商品をネットで購入もできるし、より詳しく聞きたい場合には来店につながる。店頭で買わなかったお客も情報を得られて良かったと思ってもらえる体験を提供できることが重要なのだ。

また、@cosme TOKYOには公開型スタジオ「@STUDIO」も設置されている。稼働はまだだが、20年4月から自社のスタッフだけでなく、インフルエンサーやクリエイターなどともコラボして番組を作っていく。

店舗オープン時にライブ配信を行い、そこで取り上げた商品は店舗でも非常に売れたという経験から、@STUDIOはリアル・ウェブどちらにも効果があるだろうと手応えを感じているようだ。アイスタイルにとっても現状はユーザーのうち、ECで購入する割合は1%にとどまっている中、さらにEC利用を促進することにもなるだろう。

 アイスタイルは当初より生活者視点を重視し、それは今でも変わっていない。一番に「生活者」を置くというところに@cosmeの強さが出ているのだ。