DXについて短期(導入して1ヶ月以内)でまず確認しなければならないのは、想定していた利用者がきちんとシステムを活用できているかだ。DXのためのシステム構築や導入においてはKPIやKGIを決めるはずだが、その前提として「想定使用者全員がきちんと活用する」ということは忘れてはいけない。まずはその前提が破綻していないかを確認しよう。例えば「営業部門20名のためにzoomなどのオンライン営業のシステムを導入したのに、実際に使っているのは5名で、あとは従来通り直接営業か電話を行っている」というような状況になっている場合も多い。新しいシステムの導入には利用者が慣れるまでにある程度負荷がかかってしまうため、すぐに離脱してしまう社員も出てくるからだ。そうなるとそもそも想定していた効果など出るわけもなく、「このシステムは使いづらくて生産性が下がる」「現場がわかってない」などの不満が出てきてしまうだろう。そうした場合に備え、使用手順書(使い方マニュアル)や使い方解説の動画を作るなど、全員が慣れるまで離脱せずに使ってもらえるように工夫しておくといいだろう。システムに少しでも慣れている人からすると「当たり前・常識」のことでも、全くシステムと触れてこなかった現場の人からすると勝手がわからず、システム自体への不満に繋がりやすいのだ。
そして運用を進めていく中で、次に確認しなければならない数字は、利用者の満足度である。社内アンケートは紙でもいいが、例えばGoogleフォームなどのネット上でのアンケートを取れば、集計はかなり楽になるだろう。アンケート設計はシステムへの満足度や不満な点(改善点)、DXによって業務がどう変わったかなどを聞くと良いだろう。例えば業務フローの自動化でよく使われるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)においても、システムと自社の業務フローが適しておらず社員に余計な業務が発生してしまう、ということもありえる。そうした些細なミスマッチや定量化できない現場の声を把握しておくことでPDCAが回せるのだ。
DXの本質的な目的は、業務効率化=コスト削減か、付加価値の創出=利益創出による業績の向上である。そのため、まずは今回のDXがコスト削減なのか利益創出なのかを明確化しておき、実際に3ヶ月〜6ヶ月程度運用した段階で(もっと早く効果検証可能ならできるだけ早く検証すべきである。)、業績への貢献があるかどうかをチェックする必要があるだろう。経済産業省が2018年に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」において、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されている。単なるシステム導入ではなく、きちんと競争上の優位性を確立するという結果が出てこそDXなのだ。
独立行政法人情報処理推進機構が2020年に発表した「中小規模製造業の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)のための事例調査報告書」では多くの企業のヒアリングを通じて、DXを成功させるためのポイントが記載されているので参考にされたい。その中のDXがうまくいかない理由の多くは「これまでの仕事のやり方に固執するマインドセット・企業文化」「技術が難しくてよくわからないリテラシーの低さ」などの社内の人材に起因する。システムに疎い経営者は、担当者任せにしたがるかもしれないが、それを許してはいけない。あくまでトップ自らが推進しているように社内にPRしていくことが重要なのだ。新規事業と同じくらいDX推進は批判にさらされやすいからだ。だからこそ内部ではなく外部からDXプロジェクトをサポートすることは非常に重要だと言えるのだ。