ビームスに学ぶ、店舗スタッフを活用したファッションEC

自社ECをどうしたら伸ばすことができるのか、これはリテール事業者の多くが悩んでいる問いだろう。自社のECサイトを用意してみたものの、「集客が難しい」、「システムへの投資や運用のコストに対して思ったほど売上に貢献しない」など、様々な根本的な課題を抱えているのではないだろうか。

こうした中で、店舗、そしてスタッフを大事にすることが、自社ECの伸びにつながっている企業がある。それがビームスだ。ビームスは、2009年に本格的に自社ECサイトを立ち上げ、さらに2016年には自社のコーポレートサイトとECサイトを融合させた。普通は対立構造になりやすい、ECと店舗だが、ビームスがここまでECに力を入れられるのは、店舗での強みをうまく取り込めているからだという。それではビームスのEC戦略についてみていこう。

店舗の良さをECに持ってくる

そもそも2005年にZOZOTOWNへの出店を始め、そこでECの手応えを感じたビームスは、それ以前にはそこまで力を入れていなかった自社ECに本格的に取り組むようになったという。そしてその際に、ビームスは店舗の良いところを積極的に取り入れながら、自社ECを構築したのだ。店舗と自社ECでは顧客属性や売れ筋商品、そしてそもそも担当部署が異なるため、両者を分けて考えるリテール企業は多いが、ビームスはそのような分け方をしていない。

そして、店舗でのコミュニケーションをECで実現するために様々な工夫をしている。例えば、店舗での“商品を手に取る”という行為を、ECではビームスらしさを体験してもらうために、商品の画像のクオリティを上げることで代替している。また、店舗でのコーディネート提案についても、ECでは関連付けの商品構成やレコメンデーションにこだわることで実現しているそうだ。さらに、より店舗とECをシームレスにつなげるため、システム改修にも随時取り組んでいる。店舗と自社ECのポイントの共通化を2013年に、会員IDの統一を2016年に実現した。お客様アンケートでも要望の多かった、ポイントの共通化や会員IDの統一によって、飛躍的にサービスの利用が促進されたようだ。

さらには2016年にコーポレートサイトとECサイトを融合させるのだが、この改修も、お客様の購買体験を断絶させないためのものだ。店舗では、商品を見た後、気に入ったものはそのまま購入できるのが普通だ。いくらワクワクするような体験をし、きれいに商品が陳列されていて購入意欲が高まったとしても、そこですぐに買えない店舗では、購入をあきらめるお客様もやはり出てくるというはわかるだろう。こうした店舗で考えると当たり前の発想から、オウンドメディアとコマースを一体化させる取り組みを行い、実際に相乗効果も出ているようだ。

店舗スタッフこそビームスの体現者

ビームスのEC施策の面白い点として、店舗スタッフがECサイトで活発に投稿していることが上げられる。全国約1200人のショップスタッフが、「スタイリング(コーディネート写真を投稿)」「フォトログ(小物などを見せることを目的とし、写真を投稿)」「ショップブログ」などで投稿できる仕組みを持っているのだ。しかもサイトのトップページにタイムラインとして表示しており、それはお客様毎のパーソナライズまで可能にしている。

ただ、こうしたスタッフ巻き込み型の仕組みを作ってもなかなか機能しないものだが、ビームスは、スタッフ個人とショップというそれぞれのレイヤーで、投稿モチベーションを保つ工夫をしているようだ。

まず、投稿についてショップ単位ではなく、スタッフ毎のアカウントで投稿を行えるようにしているそうだ。個人ブログとしてだけでなく、レーベルやショップにも投稿できる場所があり、投稿先は自分で選べる。自分の責任によって情報発信できるようにすることで主体性を促しているという。こうすることで、単なるキャンペーンの告知や新商品の説明に終わるのではなく、より個々のスタッフのパーソナリティを出した投稿がしやすくなっているのだ。

さらに各スタッフは、自身の投稿による売上やアクセス数、フォロワー数など様々な情報を見ることができ、加えて他のスタッフの情報も見ることができる。そしてスマホから簡単に、気軽に投稿できるようになっているなど、徹底的にスタッフが投稿できる・したくなるシステムを作り上げたのだ。

一方で、ショップにおいては、半年に一度、個人だけでなく店舗単位でも表彰を行っており、店舗としても個々のスタッフが発信することを推奨するようにしている。ちなみに、売上や閲覧数(PV)だけでなく他の要素も含めて総合的に判断して表彰しているとのことだ。

こうした投稿のしやすさや投稿へのモチベーション、さらには評価まで含めて設計していることが、スタッフの活発な投稿を支えているのである。

体温のあるECサイトへ

ビームスのEC化率(自社ECだけでなくECモールも含めての数字)は20%を超えており、その中では自社ECが最も大きなシェアだそうだ。こうした自社ECの割合が高まるにつれ、ECモールへの出店では取れなかったデータが取れてくると期待できる。さらにECと店舗のデータだけでなく、カスタマーセンターのデータなど様々な部署に散らばるデータをさらに統合していくことで、ビームスのサービスはさらに進化していくだろう。

さらにビームスは、動画での投稿にも挑戦している。こうすることでよりリッチな情報をお客様に届けることができるのだ。よりデジタルの重要性が増す中、店舗で培った“接客”のノウハウをいかにデジタルに変換するかということを、常に試行錯誤しているのだ。

そもそもビームスは、なぜECにそのような店舗の体温を感じられるような設計を持ち込めたのだろうか。それは矢嶋氏を含め、ECを構築した主体メンバ―が店舗スタッフ経験者だからではないだろうか。たとえ店頭のみでの販売に限定されている商品であっても、ビームスのECチームは写真撮影を行い、全てサイト上に掲載しているというこだわりである(もちろんサイトでは買えない旨を記載している)。ECの売上にはつながらないけれども、ビームス全体で考えた時に、お客様に知ってもらい店舗に足を運んでもらう機会になればいいという想いからである。

ECの構築は情報システム部、ECの運営はマーケティング部に任せてしまうのではなく、全社的にECには取り組む必要がある。現場の温度感、お客様の要望を肌感覚で一番わかっている店舗を、ECの構築や運用にも巻き込んでいくことが体温のあるECサイトを作り上げる秘訣なのではないだろうか。