省人化・省力化を可能にするソリューション技術

今は、どの業種も深刻な人手不足に陥っています。したがって、最適なテクノロジーを用いて業務を効率化し、必要人員や工数を削減することは、あらゆる小売業にとって、これからの時代を生き抜くために非常に重要なミッションであることは間違いありません。

しかしながら、真の意味で選ばれる小売業になるためには、省人・省力化「だけ」を目的に据えるべきではありません。それらを実現した先で、いかにリソースを有効活用してお客様の購買体験の質を高めるかまでを見据えた上で、自社に最適なソリューションを選ぶ必要があるのです。

この前提を念頭に置きつつ、現在主流となっている、あるいは今後注目すべき省人・省力化のテクノロジーを紹介していきたいと思います。

省人・省力化のテクノロジーが活きるポイントは、大きく「売場業務(接客、決済など)」と「バックヤード業務(検品、在庫管理など)」に分けられます。

セルフレジ(売場)

店舗での省人化という課題に対して、多くの担当者がまず検討するのがセルフレジでしょう。実際に運用がうまくいっているケースも数多くあります。しかし、お客様に作業の一部を任せる形のセルフレジは、場合によっては顧客体験を悪くする「諸刃の剣」であることを肝に銘じておく必要があります。特に、お客様が操作に迷うとあっという間に渋滞を作ってしまうため、UIの設計には特に気を遣う必要があるでしょう。

また、お客様が売場を回遊する際に使用するショッピングカートに決済機能を持たせたスマートカートは、ある意味「変則型セルフレジ」とも言えるでしょう。国内では、九州エリアを中心に展開しているスーパーセンター「トライアル」の事例が有名です。

トライアルのスマートカートにはスキャナーが搭載されており、お客様自ら商品をスキャンしながら買い物をするスタイルです。買い物の途中でも、それまでの合計金額が把握できるだけでなく、スキャンされた商品に合わせてクーポンを発行したり、関連商品の提案を表示することも可能となっています。トライアルオリジナルのプリペイドカードをスキャンすればチャージ金額を用いてカート上でそのまま決済を完了させることができるため、買い物の最後にレジカウンターを通す必要がありません。

買い物カゴと違い、カートは積み上がっていく購入商品の重量を感じさせないため、「ついで買い」を促進する効果もあり、単に省人化を実現するだけでなく、客単価のアップにも貢献する可能性があります。

後述するRFIDなど別のテクノロジーを掛け合わせることによって、よりシンプルな動作で購買可能な仕様にすることもできるでしょう。

レジレス(売場)

レジレスは、文字通り売場に「レジがない」状態です。これを実現させるもっともシンプルな方法は、アプリ上で注文と決済を完了させることで、すでにカフェやファストフードなどの飲食店では「モバイルオーダー」と称してレジレス店舗を展開しているところも増えてきました。

レジレスが有効なのは、もちろん飲食店だけではありません。例えばアパレルのGU STYLE STUDIOなども、この形で決済までを完了させます。GU STYLE STUDIOはショールーミング特化店ですが、在庫を抱える必要がある通常の店舗でも、基本的にはECの仕組みを流用することでレジレス店舗は実現できるでしょう。

長期的な視点に立った時、レジレスは全ての企業が真剣に実現を検討するべき課題だと言えます。なぜなら、様々なテクノロジーが進化した今、「店舗にはレジカウンターがあるべき」「会計はレジに並んで行うもの」という過去の常識に囚われる必要は全くないからです。レジカウンターを設置するスペースがなければ、店舗空間はもっと自由に設計できますし、そのことによってお客様の購買体験の質をより高めていけるはずです。

ジャストウォークアウト(売場)

レジレスの中でも、「Amazon Go」が掲げて有名になったのがジャストウォークアウトで、お客様が手に取った商品を店外に持ち出すだけで決済が完了するスタイルです。

ジャストウォークアウトを実現するには「来店者を特定する」「手に取られた商品を特定する」「来店者と商品を紐づける」技術が必要で、これについては様々なテクノロジー企業が独自の手法を編み出しています。

Amazon Goの場合は専用のアプリで表示したQRコードを入店時にスキャンすることで個人を特定し、店内では無数のカメラ、マイク、そして赤外線、重力、圧力など各種センサーを駆使することでお客様の動向と商品の動きを常に追跡し、正確に把握できるようになっています。

国内においては、NTTデータが独自のシステムを用いたPoCを六本木で行なっており、2022年度までに小売業1000店舗に対する同システムの導入を目指しています。

※amazon goの様子
※amazon goの様子

RFID(売場、バックヤード)

商品のID情報を埋め込んだタグから無線通信で瞬時に情報をやり取りできるRFIDは、電波が届く範囲であればタグが離れた場所にあっても複数の情報を一括で読み取ることができます。これまで商品識別のために使われていたバーコードの代わりにRFIDを活用することで、売場での決済業務からバックヤードにおける在庫管理まで、大幅な効率化が図れます。

RFIDとセルフレジを組み合わせた事例で有名なのは、GUのセルフレジです。導入がいち早かったのもあり、複数の商品を一瞬で認識し表示されること自体が「新たな顧客体験」となって話題を集めました。

RFID自体は特別新しい技術という訳ではなく、昔から存在していました。しかし非常に高価だったため、商品管理のためにRFIDが大量に必要な小売店舗では、その有用性は認められても本格的な実用化には至っていませんでした。しかし、近年RFIDの価格が下がってきたため、省人・省力化実現手段の重要なパーツとして、改めて注目されているという状況です(経産省では、2025年にはRFIDタグの単価を1円にする、という目標を掲げています)。

ロボット(バックヤード、売場)

プログラム通りに動き、休憩も必要としないロボットは、ヒューマンエラーが起きやすいバックヤード、あるいは物流倉庫における商品の仕分け、ピッキング作業を任せることで省人化に大きく貢献してくれます。

この分野に大きく投資している例として、情報製造小売業を掲げるファーストリテイリングの有明倉庫が挙げられます。現時点で省人化率は90%と言われ、最終的には物流の完全自動化を目指しています。

一方、店舗の売り場において接客を一部をロボットに任せるという省人化の方法もあります。例えば米国の住宅リフォーム・生活家電チェーン「Lowe’s」では、2016年に「LoweBot」と呼ばれる接客ロボットを店内に配置し、簡単な案内を任せるPoCを実施しています。これは現場スタッフがより高度な接客に集中できる環境を作ることが狙いだったと言えます。

国内においても、2018年にパルコがAIスピーカーの技術を活用し、お客様の希望を聞いて該当する場所まで自走して案内する接客ロボットのPoCを行なっています。こちらのロボットは、閉店後には商品に付けられたRFIDタグを読み取って棚卸しを行うなどバックヤードの業務も担うことでも注目されました。

いずれにしても「単純な問合せに対応、多言語での接客」といった課題は、ロボットでなくともアプリをインストールしたタブレット端末などを設置すれば解決できるため、接客ロボットを省人化・省力化の目的だけで導入することは得策ではないかもしれません。ロボットの接客というだけで集客できたのはすでに過去となっており、店舗にとってロボットだからこその価値とはなんなのかということが改めて問われています。

ドローンによる在庫管理(バックヤード)

ドローンは単に空撮映像を撮影するだけでなく、様々な分野での可能性が追求されているデバイスです。小売業においては、その特性を活かして在庫管理を大幅に効率化することが期待されています。

特に、大規模な倉庫で在庫管理する必要がある場合、ドローンがそのポテンシャルを存分に発揮すると言えます。前後左右に加え、高低も自由に、しかも素早く移動できるドローンとRFIDを組み合わせれば、人間が目視するのがとてつもない重労働になるような天井の高い倉庫内でも縦横無尽に行き来できます。しかも、ドローンは自動制御できるため、パイロットを配置する必要がないため、文字通り、在庫管理を省人化することが可能になります。

在庫管理用ドローンを開発する米国のテクノロジー企業Pensa Systemsは、今年初頭に500万ドル(約5億5000万円)の追加資金を調達しました。このことからも、小売業におけるドローンに対する期待度が伺えます。

※ドローンイメージ

テクノロジーは「魔法」ではない

ここに挙げた省人・省力化のソリューションは、その活用方法も含めてほんの一例です。どのようなテクノロジーの使い方がマッチするかは、企業ごとの事情によって全く変わってくるものです。そして、テクノロジーは決して、導入すれば課題が丸ごと霧散して消えるという、魔法のようなものではありません。

例えば、上の項目で紹介したRFIDタグを導入すれば、決済業務そのものは効率化されるかもしれませんが、RFIDタグに商品情報を入力していくという新たな作業が発生する訳で、それについてどの部署の誰がやるのかまでを設計できていなければ、本当の意味で省人・省力化が達成できたとは言えないでしょう。

何かを導入して店舗のオペレーションが変われば、それが軌道に乗るまで、逆に効率が落ちる可能性だってあります。

そういった状況まで考えを及ばせつつ全体を俯瞰した上で、どういったテクノロジーを導入することが有効化を考えるべきなのではないでしょうか。

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