RaaS(Retail as a Service)とは

RaaS(Retail as a Service)は、「小売のサービス化」である。小売企業の持つ資産(場所や物流網、顧客情報など)を活用して、他の企業に対して月額サービスを行い、新たな収益を得るということだ。例えば、店舗の一部スペースを月額で貸し出し、さらに人材や在庫管理、販売支援などの運営業務もサポートすることなどが代表的である。こうすることで、今まで店舗を持ち得なかったスタートアップやD2Cのような企業などが、実店舗という新しい販売チャネルを低コスト・低リスクで始めることができる。小売にとっても、今までの付き合いとは異なる企業からの収益を創出できるのだ。アメリカのb8taが有名だが、日本でも小売企業がこの手法を取り入れ始めている。EC企業の台頭によって売り場の価値の再定義が必要性に迫られている小売にとって、RaaSはその一つの答えだと言えるだろう。

(実はRaaSにはもう一つ、次のような解釈も生まれている。今までの小売は基本的に「モノを売る」ことが価値であったが、「サービスを提供する」という発想によって、消費者の生活に寄り添うことで収益を上げる、と言うこともRaaSと呼ばれ始めているのだ。しかしこちらはまだ少数派なため、今回は最初に示したRaaSについて述べることにする。)

日本での代表的な例として、2019年11月に、渋谷PARCOにオープンした「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」が挙げられる。渋谷PARCOの1階に、商品を売らないショールーミング店舗がオープンしたとして話題になった。ここでは、最新テクノロジーを駆使した家電製品やクラウドファンディングを活用して開発された製品、発売前の最新プロダクトが展示されている。この店舗の特徴は、なんといってもカメラでの情報取得だろう。天井に設置されたカメラで来店者を解析し、展示製品に関心を寄せた人数や属性、店舗内の行動パターンなどの回遊データを出展メーカーに提供するのだ。発売前の新製品を消費者に実際に手で取って体験してもらい、感想をメーカーに届けることで製品開発に活かす狙いだ。こうしたカメラの活用は始まったばかりであり、実際の有用性や個人情報の取り扱いなど未知数な部分は多い。しかし、今まではわからなかった、「手に取ったけれども買わなかった」、「どんな人たちが興味を持ったか」、「どんな属性の来店者が、どのプロダクトの前でどのくらい立ち止まったのか」などの、購入履歴以外の情報を得られるかもしれないと期待されている。これらのデータはプロダクトのブラッシュアップやマーケティングに活かされ、さらに良い顧客体験を生み出す種となるだろう。

しかし、アメリカのb8taは、店舗によってはガラガラだという話も聞く。このRaaSがうまくいくかはわからないという印象だ。今は、ショールーミング店舗という目新しさによってメディアに取り上げられている段階だが、この2020年は、消費者の生活にきちんと組み込まれるかどうかを見定める年になりそうだ。消費者が、ウェブ(ECサイト)ではなく、そこにわざわざ行くほどの理由を作れるかがより重要になるだろう。渋谷PARCOはマーケティングを無視し、自分たちの目利きによって市場を作り出すと宣言していたが、どういう商品(プロトタイプ)を揃えるか、どういう体験をしてもらうかという目利きが今まで以上に求められるだろう。

※渋谷PARCOにオープンした「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」。様々なプロトタイプ製品が並べられている。
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